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福岡高等裁判所 昭和35年(ネ)102号 判決 1960年9月09日

控訴人(原告) 合資会社ゑびすや商店

被控訴人(被告) 熊本国税局長

原審 熊本地方昭和三二年(行)第一二号(例集一〇巻一二号226参照)

主文

原判決を取消す。

別府税務署長が控訴人の昭和三〇年九月一日から昭和三一年八月三一日までの事業年度の法人税についてなした重加算税の賦課決定に対する控訴人の審査請求を、被控訴人が昭和三二年一〇月二九日附をもつて棄却した決定はこれを取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述竝に証拠の提出認否は……(証拠省略)……原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

控訴人は呉服類小売業を営む会社であり、昭和三〇年九月一日から昭和三一年八月三一日までの事業年度の法人税につき、昭和三一年一〇月三一日別府税務署長に対し確定申告書を提出したところ、同署長は昭和三二年二月二八日課税標準及び法人税額を更正すると同時に、重加算税額一二七、〇〇〇円を徴収すべきものと決定し、同年三月二日その旨控訴人に通知したこと、控訴人は右重加算税の賦課を不服として、同年三月二九日別府税務署長に再調査の請求をしたが、同年六月二二日右請求を棄却する旨の通知を受け、更に同年七月一二日被控訴人に審査請求をしたが、同年一〇月二九日附で該請求を棄却されたこと、右重加算税を賦課されるに至つた理由は、控訴会社の昭和三一年八月三一日現在の商品棚卸の結果によれば、呉服類中御召の価額合計は金六五九、二〇〇円であり、これを所得計算の基礎として算定した法人税申告書を提出すべきに拘らず、前記確定申告書においては棚卸御召の価額合計を金六五、九二〇円とし、これを所得計算の基礎としていることが発覚し、別府税務署長は右申告につき控訴人において事実の隠ぺい又は仮装があるものと認定したためであることは、いずれも当事者間に争がない。

そこで前記棚卸商品中御召の価額算定につき、控訴人に事実隠ぺい又は仮装の故意があつたものか、又は控訴人の主張するように、担当店員の単なる不注意による錯誤に基くものであるかについて判断する。

各成立に争のない甲第一号証の一乃至一九五(乙第一号証の一乃至三は右甲号証の一部分に該当する)第二号証、原本の存在及び成立に争のない甲第三号証の一乃至八に原審竝に当審証人大神昌之、同大神友枝、同水口正男の各証言、原審における控訴会社代表者市川愛子、当審における控訴会社代表社市川匠の各供述を総合すれば、控訴会社においては経理専門の担当職員がいなかつたため、会社代表者市川匠の姪である訴外大神友枝に依頼して、毎日夜間その日の売上等の帳簿記入をさせていたが、本件事業年度の法人税確定申告につき、期末現在の商品棚卸表の作成も同女にこれを依頼したこと、同女は控訴会社の店員等が分担して商品目別に摘記した計算表を自宅に持帰り、夫である訴外大神昌之に手伝わせて、右計算表に基き棚卸表(甲第一号証の一乃至一九五)を作成したが、同表中商品御召の部(甲第一号証の一七四乃至一七六)は右昌之が記帳したところ、その金額合計は金六五九、二〇〇円となり、昌之はこれを算用数字をもつて「¥65,9200」と記載し、通常千の位取りを現わすコンマを誤まつて万位のところに記入したこと、右棚卸表の記載が一応完了した後、大神友枝は各葉に亘り再度目を通した際、右御召の部の合計はコンマの位置から見て、六五、九二〇円であるのを誤まつて「0」を一字多く記入したものと簡単に思いこみ、これを訂正するため前記合計数字の未尾に「0」を書加え、下位二桁の「0」の下に線を引いて「¥65,92000」と改め、下位二桁は銭位を現わすものとし、結局六五、九二〇円と読まれるように書改めたこと、その後控訴会社は本件法人税確定申告書及び附属の貸借対照表等の作成を税理士森三郎次事務所に依頼したが、同事務所の職員水口正男は前記棚卸表の計算を検算し、同表の各葉毎に合計額を鉛筆書きで記入し、その際前記御召の部の末葉のみの合計額でも一三〇、〇〇〇円となり、その直ぐ下段に記載してある前記合計額六五、九二〇円が誤まりであることは一見して判明すべきに拘らず、同人もまた不注意にも、算盤に現われた数字と対照して数字面では相違がなかつたため、位取りの誤まりに気がつかず、そのまま看過してしまつたこと、その結果貸借対照表に記載された棚却商品の合計金額は、実際の金額より金五九三、二八〇円少ないこととなり、これを基礎として本件確定申告書が作成され、そのまま税務署に提出されるに至つたこと、右申告当時控訴会社代表者市川匠は肺結核で重症の状態にあり、同人も、またその妻であり匠に代わつて控訴会社の営業を主宰していた市川愛子も、本件法人税申告については前記森税理士に一任の形で、前記棚卸表等には殆んど目を通すことなく、金額の誤謬には全く気がつかなかつたものであること、をそれぞれ認めることができる。

原審証人古園誠吉は、前記棚卸表中御召の部末葉の小計として一三〇、〇〇〇円の記載があり、御召合計がそれより少額となる筈がないこと及び控訴会社においては過去及び当該年度の法人税申告において、他にも仮装借入金等の不正申告があつたことを理由に、本件棚卸金額の過少申告も事実隠ぺい又は仮装の故意あるものと判断した旨証言するけれども、右判断が真実に副うものでないことは前段認定の事実に照らし明らかであり、殊に本件金額の誤記は、当事者に作為があつたものとして余りにも見えすいた幼稚なものであり、かつ前記棚却表を更に改ざんし又は隠匿した形跡も証拠上全くうかがわれない点に徴し、右証言はとうてい採用することができず、他に被控訴人の主張事実を肯認するに足る証拠はない。

さすれば控訴人に事実隠ぺい又は仮装の故意あることを前提とする本件重加算税の賦課処分は違法であり、ひいては控訴人の審査請求を棄却した原決定も違法たるを免れないので、控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべく右と異なる原判決を取消すべきものとし、民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条に従い主文のとおり判決するる。

(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次郎)

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